税法にある資本と利益の混同

2022年 10月17日

マイナス資本金等の原因

 自己株式取得では、取得価額を、その株式に対応する資本金等の額とその他の利益積立金額とに分別します。ただし、自己株式の取得でも、市場取引による上場株式の取得、合併・分割・現物出資・現物分配での取得では、資本と利益の分別処理をしないで、取得価額全額を資本金等の額とします。その結果、マイナス資本金等の額が生ずることがあります。これは、利益を分別しないことによる利益への資本の混入です。

MBO後の逆さ合併

 自己株式の取得の金額が大きくなるのはMBOやLBOの場合で、買収の為に用意された会社が株式のすべてをオーナーから高額な時価で買取り、完全親会社になり、その後、完全親会社と完全子会社が逆さ合併(逆取得合併)することにより、親会社が所有していた子会社株式が子会社の自己株式になるからです。その場合、巨額なマイナス資本金等の額になるのが普通です。

マイナス資本金等下での自己株取得

 そうすると、事後の自己株取得では、マイナス資本金等の故に、全額が資本金等超過額となり、全額がみなし配当になってしまい、取得側には資本金等の額を減額する処理が出てきません。今度は逆に、資本への利益の混入です。資本金等に対応する額が計算されないので、売主側の譲渡対価となる額も認識されず、譲渡原価のみ認識されることになります。対価ゼロの株式譲渡原価の認識なので譲渡損発生となります。
 売主が、 完全支配関係下にある法人の時は、譲渡損益調整資産の譲渡損益は繰延べとなります。個人については全額配当所得課税となり、譲渡損は損益通算できない損失になり易いところです。

資本と利益の混同は排絶すべし

 こういう事態を放置している理由には、みなし配当課税が済んでいないとの考えがあるからなのかも知れませんが、取得時の相手は譲渡所得課税されているわけですから、みなし配当の代替課税は済んでいると考えて、自己株取得のすべての場合で、その取得時に資本と利益の分別作業をするのが合理的です。過去から自己株式となっているものでも、一株当りの資本金等の額の計算は可能なはずなので、税務における資本と利益の分別の徹底と透明化のために、税務が生み出す資本と利益の混同の実態は清算されるのが望ましいところです。