今年の改正税法
過年度への遡及適用の珍事例

2022年 06月10日

遡及適用違憲の訴訟

 不動産の譲渡所得を総合課税から分離課税にする改正税法を公布の日より前の年初に遡って適用するとしたことにより、幾つかの遡及立法違憲無効訴訟が起きたのは、2004年の税制改正でした。2011年の最高裁判決は、所得税は期間税なのだから、納税義務の確定日としての12月31日からすれば遡及には当たらない、と言い、適用を4月以降とすることが憚られるほどの緊急の遡及立法の必要性があったと述べて、遡及立法合憲・納税者敗訴としました。

敗訴でも事実上の勝訴効果

 しかしその後、その判決内容の納得性の欠如を指摘する多くの判例評釈が書かれ、また、この判決以後に於いては、納税者不利益遡及立法だけでなく、遡及立法一般がほとんど行われなくなりました。
 ところが、今年の税制改正では、何年も遡及することを前提にしたものが2件ありました。納税者に不利益をもたらす内容の改正ではないので、係争になる余地はないのですが、極めて珍しいケースと言えそうです。

ソフトバンクスキーム潰しの立法にミス

 その一つは、ソフトバンクスキーム潰しと言われた子会社株式簿価減額特例の見直しです。スキームは、外国から買取った子会社に配当をさせて、その子会社の株式評価額を下げ、その後に子会社株式を譲渡して譲渡損を発生させるというものです。それへの対抗策として、評価を下げることになる配当では株式簿価が切下げとなる規定創設で譲渡損発生を防止することにしました。しかし、期中利益の期中配当は、評価減を生まない配当なので、簿価減額処理の対象外であるべきはずだったのに、立法ミスだったのか、そのように制度化されていませんでした。それで、この規定修復がなされ、規定創設時である2020年4月1日への遡及適用とされました。

違法無効判決を承けて

 もう一つは、最高裁判所の判決(令和3年3月11日)が、政令を違法・無効とする内容だったことを承けての見直しです。利益剰余金と資本剰余金の双方を原資とする剰余金の配当(混合配当)での、みなし配当の額の計算結果が、資本剰余金を超える資本金等の額の支払いになってしまうという異常部分の修正です。この改正は、違法無効部分の除去なので、更正の請求の可能な限りの遡及適用となります。