自身にもいつか起きる相続には、遺言を利用した被相続人の合理的な判断が欠かせません。配偶者には残された人生を安心して過ごすための財産の帰属、子供たちには将来の生活設計を考慮した財産の分配による合理的な判断が求められます。
遺言がない場合の遺産分配は、法定相続と代襲相続が基準となります。法定相続は財産の分配ルールとして、代襲相続は相続開始以前に相続人となるべき者(被代襲者)の死亡などの場合、その相続分を被代襲者の直系卑属に相続させる合理的な制度です。
一方、法定相続では財産は一律に分配されてしまいます。代襲相続では子が先に死亡していた場合、子の配偶者は代襲相続人になれないので、突然の経済的苦境に追い込まれてしまいます。相続人となるべきであった兄弟姉妹が先に死亡していた場合は、兄弟姉妹の子(甥、姪)が予期せぬ代襲相続人となってしまいます。このように、法定相続にも代襲相続にも、被相続人の意思は反映されず、相続争いの原因にもなります。
血でつながった親族間では、他人同士の関係より比較にならないほどの強い愛情を無意識に駆り立てます。たとえば、3人姉妹は、喧嘩しても仲直りできますが、友人間では、いさかいがあるとそのまま別れてしまうこともあるでしょう。
しかし、3人姉妹が結婚後、親の財産を相続する場合、配偶者がいると、住む家を持つ者、持たない者、家族に病人がいる者、裕福な夫と結婚した者など、それぞれ境遇が貧しくても豊かでも、遺産分割協議では互いに譲らず、しばしば修復しがたい争いが起こります。親は血を分けた子供たちの間で争いが生じることを望んでいなかったはずですが、争いは3人姉妹が死亡した後も、それぞれの夫や子を巻き込み、収拾がつかなくなるかもしれません。
こうして考えると、被相続人としては、配偶者に財産をどのように帰属させるか、子供たちに財産をどのように分配するかをあらかじめ自分の意思で合理的に決定し、遺言しておくこと、さらに生前贈与や相続人の寄与分、配偶者の特別寄与料で調整し、そのうえで最後に法定相続分に委ねる遺産分配を考えることが大切になりそうです。